「改悔批判」を考える（上）

改がい悔け批ひ判はんとは、浄じょう土ど真しん宗しゅうで行われる儀ぎ式しきの一つである。この儀式では、門もん徒と・僧侶そうりょが信心しんじんの正せい否ひを判断されることとなる。「改悔」とはあやまちを悔くい改あらめることで「批判」とは判断することを意味するが、本ほん願がん寺じ第だい8代だい蓮れん如にょ（1415-1499）の時代に門徒や僧侶が各自の信心を告白して、その内容について蓮如に批判を仰あおいだことがこの儀式の原型とされる。この時代は、報ほう恩おん講こう中ちゅうの儀式として時間が定まっていたわけでもなく、蓮如の法ほう談だん（法ほう話わ）後ごに僧俗そうぞく（僧侶・門徒）がそれぞれ改悔をして、蓮如がそれらに対する批判を行ったと考えられている。

蓮如～実如じつにょ時代（1480～1525年頃）

第21代明如みょうにょは、『明如上人日記抄しょうにんにっきしょう』において、改悔批判の故実こじつ（先例といえる事例）が『御文章ごぶんしょう』（蓮如）に依よると記している。下記に明如が例にあげた『御文章』三通つうを抜粋する。

①「三さん帖じょう目め　第だい十じゅう一いち通つう」

…これによりて、今こん月がつ二に十じゅう八はち日にちの御ご正しょう忌き七しち日にちの報ほう恩おん講こう中ちゅうにおいて、わろき心しん中ちゅうのとほりを改がい悔け懺さん悔げして、おのおの正しょう義ぎにおもむかずは、たとひこの七しち日にちの報ほう恩おん講こう中ちゅうにおいて、足あし手てをはこび、人ひとまねばかりに報恩謝ほうおんしゃ徳とくのためと号ごうすとも、さらにもつてなにの所しょ詮せんもあるべからざるものなり。されば弥陀みだ願力がんりきの信心しんじんを獲ぎゃく得とくせしめたらん人ひとのうへにおいてこそ、仏恩報尽ぶっとんほうじんとも、また師し徳とく報謝ほうしゃなんどとも申もうすことはあるべけれ。この道理どうりをよくよくこころえて足あし手てをもはこび、聖しょう人にんをもおもんじたてまつらん人ひとこそ、真実しんじつに冥みょう慮りょにもあひかなひ、また別べつしては、当とう月がつ御ご正しょう忌きの報恩謝ほうおんしゃ徳とくの懇こん志しにもふかくあひそなはりつべきものなり。あなかしこ、あなかしこ。

（『浄土真宗聖典―註釈版―』P.1156-1157より）

〈現代語訳〉
…こういうわけですから、今月二十八日の御正忌七か日の報恩講の間に、悪い心中の有り様を悔い改めて、それぞれ各自が正しい教えに向かわなければ、たとえこの七か日の報恩講の間、足をはこんで参詣し、人まねばかりに報恩謝ほうおんしゃ徳とくのためと言っても、結局はまったく何の甲斐かいもないものなのです。したがって、弥陀の願力がんりきによる信心を得たような人なればこそ、初めて仏恩報謝とも、また師し徳とく報謝ほうしゃなどと申すこともあるのです。以上の道理をよく心得て、報恩講にも参詣し、聖人を敬い申し上げるような人こそ、真実に如来・聖人の思し召しにもかない、またとりわけ、当月御正忌の報恩謝徳のこころざしにも深くかなうに違いありません。あなかしこ。あなかしこ。

（『現代の聖典　蓮如五帖御文』P.172-173より）

この「第十一通」抜粋箇所以前では、安心あんじん（信心しんじん）が決定けつじょうしていないのに、取るに足らない劣悪れつあくな教えを説いて、自他じたの門もん徒と中ちゅうを渡わたり歩き、金品をせしめる者がいることが指摘されている。

これらを承うけて、報恩講に参詣しても人まねのように仏ぶっ恩とん報謝ほうしゃや師し徳とく報謝ほうしゃと言ったところで甲斐かいはなく、阿あ弥み陀だ如にょ来らいの本願力ほんがんりきによる信心を得えた人こそが、阿弥陀如来や親しん鸞らん聖しょう人にんの思おぼし召めしにかなうとして、悪い心中しんちゅうの有あり様ようを悔い改めて、正しい教えに向かうことを勧すすめている。

②「四よん帖じょう目め　第だい五ご通つう」

…しかるあひだ、近年きんねんことのほか当流とうりゅうに讃嘆さんだんせざるひが法門ほうもんをたてて、諸人しょにんをまどはしめて、あるいはそのところの地頭じとう・領主りょうしゅにもとがめられ、わが身みも悪見あくけんに住じゅうして、当流とうりゅうの真実しんじつなる安心あんじんのかたもただしからざるやうにみおよべり。あさましき次第しだいにあらずや。かなしむべし、おそるべし。所詮しょせん今月こんがつ報恩講ほうおんこう七昼夜しちちゅうやのうちにおいて、各々かくかくに改悔がいけの心こころをおこして、わが身みのあやまれるところの心中しんちゅうを心底しんていにのこさずして、当寺とうじの御影前ごえいぜんにおいて、回心懺悔えしんさんげして、諸人しょにんの耳みみにこれをきかしむるやうに毎日まいにち毎夜まいやにかたるべし。これすなはち「謗法闡提ほうぼうせんだい回心えしん皆往かいおう」（法事讃・上）の御釈おんしゃくにもあひかなひ、また「自信じしん教人信きょうにんしん」（礼讃）の義ぎにも相応そうおうすべきものなり。しからばまことにこころあらん人々ひとびとは、この回心懺悔えしんさんげをききても、げにもとおもひて、おなじく日ひごろの悪心あくしんをひるがへして善心ぜんしんになりかへる人ひともあるべし。これぞまことに今月こんがつ聖人しょうにんの御忌ぎょきの本懐ほんがいにあひかなふべし。これすなはち報恩謝徳ほうおんしゃとくの懇志こんしたるべきものなり。あなかしこ、あなかしこ。

（『浄土真宗聖典―註釈版―』P.1170-1171より）

〈現代語訳〉
…ところが、最近では思いもかけず、当流に談じない誤った教えを唱えて多くの人びとを惑まどわし、あるいはその土地の地じ頭とうや領りょう主しゅにもとがめられ、自分自身も悪い考えに陥おちいってしまって、当流の真実の安心についても正しくないということがあるように見受けられます。何と歎かわしい有り様ではありませんか。悲しみ恐おそるべきです。ともあれ、今月の報恩講ほうおんこうの七しち昼ちゅう夜やのうちにおいて、各自各自こころを悔い改めて、自分の誤った心得を心底しんていに残すことなく、当山やま科しなの御ご影えい前ぜんにおいて懺さん悔げして、人々の耳にこれを聞かせるように、毎日毎夜語るのがよいでしょう。これがとりもなおさず、「謗ほう法ぼう闡せん提だい回え心しん皆かい往おう（法を謗そしる者も一いっ闡せん提だいの者も、回心すれば皆浄土に往生することができる）」（『法事讃』）の御おん釈しゃくにもかない、また、「自じ信しん教きょう人にん信しん」（『往生礼讃』）の意味にも相応すべきものです。それゆえ、まことにこころあるような人々であれば、この懺悔の言葉を聞いても、なるほどそうだと思って、同じく日頃の悪いこころを翻ひるがえして善いこころに立ち返る人もあることでしょう。これこそ本当に、今月営まれる聖人の御ご正しょう忌きの本意にかなうのです。すなわちこれが、報恩謝徳のねんごろなこころざしというものです。あなかしこ、あなかしこ。

（『現代の聖典　蓮如五帖御文』P.205-206より）

ここでは、浄じょう土ど真しん宗しゅうでは説かない誤あやまった教えを唱となえて、多くの人びとを惑まどわし、地じ頭とうや領りょう主しゅにもとがめられ悪い考えに陥おちいり、安心が正しくない者がいることを指摘している。このようなことから、報恩講に参詣する者は各自こころを悔い改めて、山やま科しな本ほん願がん寺じの「御ご影えい前ぜん」（※1）において懺さん悔げして、「人々の耳に聞かせるように語ること」を勧めている。また、この懺悔の言葉を聞いて、日頃の悪いこころを翻ひるがえして善いこころに立ち返る人もあり、これが報恩講の本ほん意いにかなうことであるとする。

③「四よん帖じょう目め　第だい六ろく通つう」

…このゆゑに、一いち七しち箇か日にちのあひだにおいて参詣さんけいをいたす輩ともがらのなかにおいて、まことに人ひとまねばかりに御ご影えい前ぜんへ出しゅっ仕しをいたすやからこれあるべし。かの仁じん体たいにおいて、はやく御ご影えい前ぜんにひざまづいて回え心しん懺さん悔げのこころをおこして、本願ほんがんの正しょう意いに帰き入にゅうして、一いち念ねん発ぽっ起きの真実しんじつ信心しんじんをまうくべきものなり。それ南な無も阿あ弥み陀だ仏ぶつといふは、すなはちこれ念仏ねんぶつ行者ぎょうじゃの安あん心じんの体たいなりとおもふべし。そのゆゑは、「南無なも」といふは帰き命みょうなり。「即そく是ぜ帰き命みょう」といふは、われらごときの無む善ぜん造ぞう悪あくの凡ぼん夫ぶのうへにおいて、阿あ弥み陀だ仏ぶつをたのみたてまつるこころなりとしるべし。そのたのむこころといふは、すなはちこれ、阿あ弥み陀だ仏ぶつの衆しゅ生じょうを八はち万まん四し千せんの大だい光こう明みょうのなかに摂取せっしゅして往おう還げん二に種しゅの回え向こうを衆しゅ生じょうにあたへましますこころなり。されば信心しんじんといふも別べつのこころにあらず。みな南な無も阿あ弥み陀だ仏ぶつのうちにこもりたるものなり。ちかごろは、人ひとの別べつのことのやうにおもへり。これについて諸国しょこくにおいて、当とう流りゅう門もん人にんのなかに、おほく祖師そし（親鸞）の定さだめおかるるところの聖しょう教ぎょうの所判しょはんになきくせ法門ぼうもんを沙汰さたして法ほう義ぎをみだす条じょう、もつてのほかの次し第だいなり。所詮しょせんかくのごときのやからにおいては、あひかまへて、この一いち七しち箇か日にち報恩講ほうおんこうのうちにありて、そのあやまりをひるがへして正しょう義ぎにもとづくべきものなり。

（『浄土真宗聖典―註釈版―』P.1171-1172より）

〈現代語訳〉
…ですから、この七か日の間に参詣をする人々の中にも、まったく人まねだけで御ご影えい前ぜんにお仕えする者があるのでしょうが、その人は早く御影前に跪ひざまずき、こころを悔い改め、本願の正意にしたがって、一念発ほっ起きの真実信心を得なければならないのです。さて、南無阿弥陀仏というのは、とりもなおさず念仏行者の安あん心じんのものがらであると思わなければなりません。子細を申しますと、南無というのは帰命するということです。つまりそれは、わたくしたちのような善はなく悪ばかり造る凡ぼん夫ぶが、その身ながらに阿弥陀仏をおたのみ申し上げるこころなのであるとわきまえるべきです。そしてそのたのむこころというのは、ほかでもなく、阿弥陀仏が衆生を八万四し千せんの大光明の中に摂おさめ取って、往相おうそう・還げん相そうの二種類の回向えこうを衆生にあたえてくださるこころなのです。それゆえ、信心といっても別のこころではなく、みな南無阿弥陀仏のうちにこもっているものなのです。ところが近頃の人は、それを別のことのように思っているようです。これについて、諸国の当流の門下の中に、祖師親鸞聖人が定められた聖しょう教ぎょうのお示しにはない誤った教えを論じて、一流の教えを乱す者が多くおりますが、もってのほかのことです。以前のことはともあれ、このような者たちは、必ずこの七か日の報恩講のうちにその誤りを翻して、正しい教えにもとづくようにせねばなりません。

（『現代の聖典 蓮如五帖御文』P.209-210より）

ここでは、報恩講に人まねだけで御影前に仕つかえる者がいるが、そのような者は、早く「御影前に跪ひざまずき」、こころを悔い改めて、本願力による信心を得なければならないと勧めて、その信心の内容を具体的に示している。尚、この「四帖目　第六通」抜粋箇所以降に三さんヶか条じょうからなる門徒の掟おきてを示して「不ふ心こころ得え」を戒いましめている。

以上、明如が改悔批判の故実として挙げる『御文章』を見てきたが、現代の改悔批判の儀式からはほど遠いものとなっている。これらの『御文章』では、信心や掟などが示され、誤った教えを説いてまわる者に対しては繰り返し心を悔い改めるように勧めている。しかし、重要なことは各自それぞれが告白を行うことであり、これは現代の改悔批判には見られない。ただ、時代が下くだるにつれて現代の儀式の原型ともいえるものも現れてくる。『御文章』の年代順に挙げると、

① 文明ぶんめい七年十一月二十一日「三帖目　第十一通」

報恩講中に悪い心中の有り様を悔い改めて、正しい教えに向かうことを勧める。

② 文明十四年十一月二十一日「四帖目　第五通」

報恩講中に当山科の「御影前」において、懺悔して「人々の耳に聞かせるように語ること」を勧める。

③ 文明十五年十一月？日「四帖目　第六通」

人まねだけで御影前に仕える者がいるが、そのような者は、早く「御影前に跪き」、こころを悔い改めて、本願力による信心を得なければならないと勧める。

となるが、①単なる改悔から②「御影前」で改悔して、この内容を人々に聞かせるようになり、③それは御影前に「跪き」行われるようにと、少しずつ変遷していることがわかる。

さて、このころの様子が蓮如の第23子実悟じつご（1492-1583）の『本願寺作法之次第』（『實悟記』）に記されている。「第五十八条」「昔の報恩講様よう躰たいの事こと」には、

一。報恩講の事『御文』にもあそばしをかれ候ごとく、太夜過候へば、人をことごとく出され御影堂に一人も人なきやうに成候て、のぞみの人五人・三人殘り候やうに見え候。人多き時は御堂衆・坊主衆、手蠟燭・しそくをともし持て人を出され候て、門をばたて候。御影前には五十人・卅人候て、第一坊主衆改悔候て、次に其外人一人づゝ前へ出られ、坊主衆の中をわけられをかれて、前にすゝみ、諸人改悔候間、一人づゝの覺悟申され、聽聞申候に、殊勝に候し。緣などより申候は不可然候。一大事之後生の一儀を緣の端などより被申候は不可然とて、一人宛前へ出て改悔名をなのり高らかに被申候て、一人一人の覺悟も聞え殊勝候き。當時の様に五十人・百人一度安心とて被申候へども、わけもきこえず忩々しきばかりにて、何たる事のたうときも義理の相違も何もきこえず候事は、前代なき事にて候。

（『真宗聖教全書三 列祖部』P.916-917より、繰り返し点を一部漢字にした）

とある。

ここでは、蓮如時代には一人ひとりが順に改悔を行ったことがわかる。しかし、第9代実じつ如にょ（1458-1525）の時代には大勢の人が一度に改悔を行うようになり、騒々そうぞうしくて何も聞こえないとの記録があり、一人ひとりの信心の中身を問わない儀礼化が進んでいったことがわかる。

証しょう如にょ～顕如けんにょ時代（1525-1592年頃）

第10代証しょう如にょ（1516-1554）が大坂おおざかの石山坊舎いしやまぼうしゃに本願寺を移すと、寺じ内ない町ちょうの発達とともに本願寺への参詣者も増えていく。戦国時代という混乱時に本願寺教団の力は増々強大になり、門主の権威もそれに比例して高まっていく中、改悔の儀式を代理の者がするようになっていく。証如の残した『天てん文ぶん日にっ記き』（1537（天文6）年11月21日付）には、

自今晩有改悔懺悔也。太夜ニ無文也。改悔事、浄照坊ニ申付候

（『領解文の味わい』P．255より）

とある。この浄じょう照しょう坊ぼうの明みょう春しゅんが、記録に残る中で最初に「安心の裁断権さいだんけん」である改悔批判を与よ奪だつ（代理を命じられる）された者と考えられている。ただし、明春が改悔に対する批判を行ったかどうかは不明である。明春は御み堂どう衆しゅうとして本願寺の儀式執行しっこうに関しては突出していた人物であるが、いわゆる一いち門もん一いっ家け衆しゅとよばれる大谷家近親者には当たらない。門主の特権として重要なのであれば、大谷家の者が与よ奪だつ者しゃとなっても不思議ではないが、権威・権力の分散や混乱をきたさないために、あえて御堂衆に与奪したものではないだろうか。一方で門主による「後生ごしょう御免ごめん」がこの頃から始まったとされ、門主に罪の赦しゃ免めんを求めて、それを門主の裁断権で許すという行為も改悔の一つとして行われるようになっていく。実悟は門主によって罪が許され、門主の保証があれば往生おうじょうできるかのような改悔について、経きょう論ろんや親鸞の教えにそのような根拠はないとして強く批判をしている。いずれにしてもこの頃の改悔は、山科時代のそれとは大きく変遷へんせんしていったことがわかる。

引き続き（下）では、准じゅん如にょ時代以降の改悔批判について述べる。

※1 御影前

ここでは本願寺御ご影えい堂どうにある親鸞の木像もくぞうの前のこと。

参考文献

関連記事