隆寛
【りゅうかん】
隆寛は天台宗の僧侶であったが、後に法然に帰依して浄土宗長楽寺流(※1)の祖となった。
1148年、藤原資隆の三男として生まれる。比叡山延暦寺で伯父の皇円や範源、慈円(※2)に師事して、北京三会(※3)の准講などを務めた。1205年には権律師(※4)となるが、比叡山を下りて洛東の長楽寺に住し、法然から念仏の教えを受けたとされる。やがて当時公開されていなかった『選択本願念仏集』(『選択集』)(法然)(※5)の披見(読むこと)を許されるなど、法然教団の指導的立場になった。法然没後、比叡山の定照が『選択集』の批判書である『弾選択』を上梓(出版)すると、その反論書である『顕選択』を著した。これがきっかけとなり、1227年に「嘉禄の法難」が起こった。これは、専修念仏への弾圧であり、
- 法然の墓堂(墓地にある建物)の破却(壊してなくすこと)
- 隆寛、幸西(※6)らを流罪
- 専修念仏の禁止を通告
- 在家信者46名の逮捕、住宅破却、追放
- 法然の『選択本願念仏集』を禁書として版木の焼却
などの厳しい内容であった。隆寛はこれにより奥州に流罪となった。しかし、実際に奥州に行ったのは弟子であり、隆寛は門弟である御家人の西阿(毛利季光)の所領である相模国飯山(現在の神奈川県厚木市飯山)に留まったが、この年に没した。
著書に『自力他力事』(一巻)『一念多念分別事』(一巻)などがある。
浄土真宗の宗祖親鸞は、隆寛を正しい念仏の教えを勧める「善知識」(仏教知識「善知識」参照)として敬っていた。親鸞は隆寛の著書をたびたび書写しており、関東の門弟に「法然聖人の正しい教えが書かれたふみ」として送っていた中に隆寛の著書がたびたび引用されている。また、『一念多念分別事』の註釈書ともいえる『一念多念文意』を著した。
- ※1 長楽寺流
- 浄土宗の五流の一つ。多念の称名によって臨終往生が確実になるとするので多念義と呼ばれるが、隆寛の教学が反映されたものではなく、これは弟子の智慶などの影響である。
- ※2 慈円(1155~1225)
- 九条兼実の弟で青蓮院に住した。天台座主に四回就いた。『御伝鈔』によれば親鸞得度の師とされている。
- ※3 北京三会
- 衆生済度のための三回の法会で、法華会、最勝会、大乗会の天台三大法会を指す。
- ※4 権律師
- 仏教教団の僧尼を管理する僧官の名称。
- ※5 『選択本願念仏集』
- 浄土宗の宗祖法然の撰述。これは、当時摂政や関白に就いていた九条兼実の求めによるもの。称名念仏こそが、阿弥陀如来の選ばれた往生浄土の行であり、これを専修することを説き、念仏往生の宗義(ここでは浄土宗の教え)を示した。浄土宗立教開宗の書とされる。
- ※6 幸西(1163~1247)
- 浄土宗の僧侶。はじめは天台宗に属したが、後に法然の弟子となる。「承元の法難」(建永の法難)(1207年)で流罪と決定されたが、元天台座主の慈円が身柄を預かることでこれを免れたという。しかし「嘉禄の法難」(1227年)で再び流罪となった。
参考文献
[1] 『岩波 仏教辞典 第二版』(岩波書店 2002年)
[2] 『浄土真宗辞典』(浄土真宗本願寺派総合研究所 本願寺出版社 2013年)
[3] 『浄土真宗聖典 -註釈版-』(本願寺出版社 1988年)
[2] 『浄土真宗辞典』(浄土真宗本願寺派総合研究所 本願寺出版社 2013年)
[3] 『浄土真宗聖典 -註釈版-』(本願寺出版社 1988年)
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源光・皇円に師事し天台教学を学んだが、1150年、黒谷に隠棲していた叡空をたずねて弟子となる。
1175年、黒谷の経蔵で善導の『観経疏』の一文により専修念仏に帰した。
まもなく比叡山を下って東山吉水に移り、専修念仏の教えをひろめた。
念仏を禁止とする承元(じょうげん) の法難(ほうなん) により、1207年に土佐国に流罪(実際は讃岐国に)となる。
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